<白木屋傳兵衛>中村梅吉さんの「いい話」【第6回:戦争と貧乏】
今年は敗戦70年、当時の都民の物資不足を書いておきたい。つまり戦争をすると、庶民はこんな状態になる覚悟が必要だということだ。
食べ物がない話はよくされているが、問題は品不足もさることながら偏在してしまうことだ。たとえば、砂糖は輸入が多かったから不足するのも早かったが、戦時末期、学校から勤労奉仕で陸軍病院へ行き、荷物の移送をやった時、倉庫の中に虎屋の羊羹が山と積まれていたのを見て、「ある所にはあるものだ」と思ったものだ。
当時、食料を手に入れるには「星に錨に闇に顔」と言われた。つまり、「陸軍」「海軍」「銭」「縁故」でなければ物が手に入らないということ。この「星と錨」は、戦後「進駐軍」に取って代わることになる。何のコネもない人は本当に困ったはずだ。
ウチは荒物屋をしていたので、石鹸、チリ紙、マッチなどの配給を仰せつかっていた。その他のものは、入った時に店頭に張り紙をすると行列ができた。月島の高射砲部隊に竹箒を運ばせたのもそんな時だ。ウチは真面目に売っていたが、中にはまったく正規には売らなかった店も多かったらしい。
とにかく、頼みは自分の手と足だけ。病院へ通うのもリヤカー、死体を運ぶのもリヤカー。燃料が無く、街頭の焼け残った電信柱を何本も切り倒したことを白状して置こう。
焼け跡で思い出したが、5月の空襲でウチが焼けたあくる日、ウチの焼け跡で近所のばあさんが何か使えるものはと探しているのを見つけた。台所にあった長さ1.5mくらいの銅製の竈はすでに盗まれてなくなっていた。物が不足すれば「モラル」も不足する。
皆さん、今度戦争をしたら、こんなことでは済まされないぜ!