大旦那のちょっといい話:<細田安兵衛さんの巻(4)>【お供え餅の具足飾り】 ■プロフィール 細田 安兵衛(ほそだ やすべえ、1927-2021) 東京日本橋生まれ。榮太樓總本鋪 第6代社長、相談役。幼名は恕夫。6代 東都のれん会会長。 茶道宗遍流時習軒11世家元。慶應義塾幼稚舎から同大学(昭和25年)卒。 全国和菓子協会名誉顧問、東京商工会議所名誉議員、名橋「日本橋」保存会副会長ほか日本橋地区の各種団体役員を歴任した。 中央区名誉区民、藍綬褒章受章、勲四等瑞宝章受章。著書に『江戸っ子菓子屋のおつまみ噺』(慶應義塾大学出版会刊)。 (細田) 明けましておめでとうございます。 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。 ところで日本橋の本店に飾られている鏡餅飾り、すばらしいですね。 先月おっしゃっていた「具足飾り」が、これですね! (細田) もともと「具足飾り」は武家の鏡餅飾りの様式の一つで、具足、つまり鎧兜(よろいかぶと)の前に鏡餅を供える正月飾りをいうんだが、これは江戸の町人がその豪華で勇壮な感じを真似たものなんだ。とはいっても、町人の家には鎧も兜もないんで、鏡餅をあれやこれやで飾りたてて、その形全体が具足に見えるように仕立てたわけだ。 どんな材料が使われているんですか? (細田) まずは、鏡餅。そこにイセエビ、昆布、干し柿、橙(だいだい)、ほんだわら(長い葉と、米俵状の実が特徴の海草)などの食品群。 さらに裏白(ゆずり葉、麻を束にしたもの)なども使って、彩り豊かに形づくる。 僕はこの由緒ある飾り方が絶対絶えることのないように、家族や親戚、そして店のみんなで伝え続けていこうと思っているんだ。 飾りに使われているものすべてが、おめでたい縁起物づくし。100年後、200年後の人たちにもぜひ見ていただきたいですね。 ところで、細田家のお雑煮は、どんなものなんですか? (細田) すまし汁で、具は大根、にんじん、鶏肉、青菜……そして四角い切り餅。東京ではごく一般的なものだと思うよ。あえて特徴といえば、塗りのお椀ではなく、蓋付きの陶器のお碗でいただくことかな。 ご家族揃って、お雑煮。ゆったりとした細田家のお正月風景ですね。 (細田) いやいや、菓子屋の正月は、忙しいんだ。昔は大晦日に店を閉じると大掃除を始めて、それが終わるともう明け方。元旦だから、お雑煮もお節料理も食べるけれど、翌日からは店をあけるからのんびりしちゃいられない。初詣なんてぇのは、正月も10日を過ぎてからやっと出かけたもんです。 日本橋の本店では、毎年正月4日に「江戸太神楽・獅子舞」が演じられますし、11日の「鏡開き」では、お汁粉のお振舞いが恒例となっていて、たくさんの人が店頭に行列をつくられます。こうした榮太樓さんの行事で、お正月らしさを実感されて喜ばれるかたも多いようですよ。 (細田) お正月早々からお客様をお迎えできるというのは、商売人にとってはなんとも嬉しいもんなんだよ。今年も良い1年にしたいもんだね。 聞き手:太田美代 ツイート 戻る 最新記事 This post is also available in: 英語