私どもの初代・濱田卯平衛は、日本橋室町で江戸時代から続く名倉屋旅館の3代目の長男として生まれました。
名倉屋があった場所は今、コレド室町が建っているあたりで、お隣は贅を尽くした料理ともてなしで知られた料亭・百川。安政元年(1854)にペリー率いる黒船が来航した時は、幕府から1人前3両(現在の金額で30万円程)・500人分の本膳料理の饗応を任された歴史の店です。
ところが財政が逼迫していた幕府から、この饗応の代金が支払われることはありませんでした。百川の経営は次第に傾き、明治元年(1868)には倒産。その時、名倉屋が百川の土地・建物を買い取ることで、百川は滞っていた業者への支払いなどを精算して、忽然と姿を消しました。
さて、その翌年に名倉屋に生まれたのが初代・卯平衛です。もしかして、名料亭の建物は子どもたちのいい遊び場になったのかもしれませんね。
やがて成人した卯平衛は、姉が養子を迎えて跡を継いだため、一度は日本橋の生糸問屋で修業を積んで神保町に糸屋を出しますが、やはり旅館をやりたいと、明治32年(1899)にニコライ堂が見える神田駿河台の地に龍名館をつくります。現在、お茶の水本店のある場所で、これが私どもの創業です。
贅を尽くした和風の客室に、選び抜いた調度・什器……。それは名倉屋を超える高級感に満ちたものでした。卯平衛が夢を叶えた旅館は幼い頃からその栄華を聞いて育った百川へのオマージュが込められていたのかもしれません。
●ホテル龍名館東京
●中央区八重洲1‐3‐22
●03(3271)0971