ところで、この地震での当店の被害は微細なものでしたが、棚から落ちて散らかったり壊れたりしたものなどを片付けしている時、思わぬものを発見しました。 およそ90年前に東京を襲った関東大震災(大正12年(1923)9月1日)のあと、当店がお客様に出したハガキです。昔の文体で書かれておりますので、現代文してご紹介いたします。
「拝啓 このたびの未曾有の大震災により(店が)全焼する災難にあいましたが、幸い家族も店員も無事で、左記のところへ避難しておりますので、どうぞご安心ください。いずれ元の場所に店舗を建築する予定にしておりますが、しばらくの間はこの場所で営業いたします。材料も職人もそれぞれ準備が整い、問題なくご注文をお引き受けできますので、ご心配ございません。ご同情をもちまして、変わらぬご注文をお申し付けいただけますよう、お願いいたします。 敬具」
住所は、東京市外下渋谷六百二十六番地。店名は「伊場仙商店」で、こちらも旧字混じりで記されております。 関東大震災は、神奈川県の相模湾沖80kmを震源として発生したマグニチュード7.9の地震による大災害で、神奈川・東京・千葉を中心におよそ10万5千人もの死者・行方不明者を出し、11万棟余が全壊、21万棟余が全焼したと推計されています。この猛火のなかで、当店も焼け落ちたわけですが、ひと月以内に体制を立て直して、なんとか仮の店舗を構えたようで、行間に当時の苦労と再開の歓びを感じました。
これまで江戸~東京を襲った震度6以上の地震は、1615年の「慶長江戸地震」、1649年の「慶安江戸地震」、1703年の「元禄地震」、1855年の「安政江戸地震」、1894年の「明治東京地震」、と約50年前後の周期で繰り返されてきました。そのあとが、1923年の関東大震災、そして、このたびの2011年の東日本大震災です。
3.11の余震の続くなか発見した古いはがきは、あらためて店を守り伝えていくことの難しさと、その努力の尊さを伝えてくれる、ご先祖様からのありがたい“手紙”でした。
文:太田美代
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