<白木屋傳兵衛>中村梅吉さんの「いい話」【第18回:歳時記:9月】
9月の歳時記といえば、やはり「月見」である。
今年の旧暦8月15日は9月15日にあたるので、9月に旧暦8月の月を見ることになる。
母がよく「8月15日の月を見たら、9月15日の月を見ないといけない」と言っていた。
9月の満月が雨や曇りで見えないと、「片見月だ」といって嫌がった。子どもの私は「天気都合なんだから、しょうがねえのに」とよく思っていた。
明治期まで、月見は流行っていたらしい。書物には、月の名所として綾瀬、三股、洲崎、(すざき)、鉄砲洲、小名木川、芝浦、高輪、不忍池などの名が残る。
8月の月見の日には、ススキと月見団子を供えたが、芋名月とも呼んでサトイモも供えた。
物の本によると、「サトイモを12個(閏年は13個)、三宝の上に盛る」とあるが、ウチでもそれに近いことをしていた。こうした行事は戦争中に全部吹っ飛んだ。
旧暦8月の月見は、秋の収穫の始まりを告げる歳時記でもあった。早場米を始め、柿、栗、ぶどう、嫁は食えない秋茄子も。
秋の寂しさを補ってあまりある「収穫」が始まるのであった。今、こんな話をしても、トマトは年中あるし、イチゴの最盛期は12月ときた。
トマトやきゅうりがなると、お盆だなあなどと言っていた昔がすべて良かったと言わないが、便利になり過ぎてはいないだろうかと思う今日この頃である。