<白木屋傳兵衛>中村梅吉さんの「いい話」【第12回:歳時記:3月】
東京では積もるほどの雪はあまり降らないが、2月から3月にかけて大雪が降ることがある。有名なのが、1936(昭和11年)2月26日の雪。二二六事件の日の雪だ。その話は、またの機会にすることにして…。
鈴木理正さんによると、江戸時代、日本橋あたりの商家では雪が降ると「雪かき競争」が始まったという。自分の家の前はもちろん、両隣三尺は綺麗に雪をかいておくのが「商家の道理」なんだそうだ。それほど、江戸期の商家は近隣を大事にした。我が家でも、雪が降ると父がやたらと雪をかきたがっていたのはその故なんだろうか。
さて、3月といえば雛祭りである。我が家にも姉の雛飾りがあった。両脇木組みで板を渡し、赤毛氈で覆う5段飾りで、高さは1.8m×幅は2.5m程。これを飾る時、仕舞う時はたいてい手伝わされた。菱餅も白酒も供えていたが、親戚の娘たちが集まって、可愛い宴会をやったという記憶はほとんどない。
節句を過ぎてもお雛様を仕舞わないと行き遅れる(婚期をのがす)というのはよく言われることだが、姉は尻を叩かれて仕舞っていたせいか、結果は晩婚だった。そのお雛さまは、空襲時に失われた。そのくせ三味線は姉が疎開させていて助かった。
「雛店で花見にゆかぬはずにする」なる古川柳がある。花見の予算を削ってお雛様を買うということを歌ったもので、昔も今も、お雛様はそんなに安い買い物ではないのだろう。
そういえば「江戸名所図会」でも「煕代勝覧」でも、本建築の人形屋さんの店の前の道路に仮小屋風の人形屋が店を出しているが、営業妨害にならないのだろうかと心配していたところ、本建築の店と露店とは扱う商品のレベルがまるで違い、ちゃんと棲み分けていたのだそうだ。