<白木屋傳兵衛>中村梅吉さんの「いい話」【第16回:歳時記:7月】
7月は、文月(ふみづき)。この「文」はラブレターだという。江戸時代の『類聚名物考』には、稲の花が孕む時で、はらむ➡ふふむ➡ふふみ、となまって生まれた言葉であろうとある。
7月7日は、七夕(たなばた)。『東都歳時記』に、常盤橋から見る笹竹の林立した日本橋京橋の壮大な画があるが、ウチでも戦争までは毎年笹竹を坪庭に立て、短冊にごちゃごちゃ書いたのを、ぶら下げていた。七夕は万葉集にも九八首もの歌があるが、そのほとんどが熱烈な女性の恋歌なんだとか。
「天の川 川戸に立ちてわが恋し 君来ますなり 紐解き待たむ」
堤 秋栄の絵で、遊女のようにイロっぽいなりをした織姫が、夜空に浮かんだ機織り(はたおり)機に所在なげに腰かけているのを見た時、浮世絵師はこのへんを全部承知しているんだなあと納得した。
七夕は五節句の一つで、星祭りをすると文字が上手になるとも信じられた。私の場合、何年、七夕様に祈ってもだめ、習字を習いに行ってもだめで、戦後ある雑誌社に飛行機の模型の記事を頼まれて手書きの原稿を送ったところ、判読不可能で何度も往復することになった。同年代と比して私がワープロを早く始めたのは、その悪筆の故だ。