<白木屋傳兵衛>中村梅吉さんの「隠居の独り言」(4)
■時代劇のウソ
ワタシの持ちネタの一つ、「時代劇のウソ」を書き残しておきたい。
はっきり言ってテレビも映画も、時代劇はウソばかり。本当のことをやったら物語・ドラマにならないからだ。
たとえば、仇討ち(あだうち)の話がよく出てくるが、本当のところ仇討ちの成功率はたった2%、98%は失敗だ。
たとえば、奉行所の入口にかかっている「奉行所」という巨大な表札。建物に表札をかけるようになったのは、明治以降、地方の人が増えて必要に迫られたからだ。
それまでは、みんな知っているから、建物に表札はなかった。いまも、丸ビルに「丸ビル」という看板がかけられていないように。
たとえば、橋。時代劇に出てくる木造の橋にはよく擬宝珠(ぎぼし)がついているが、擬宝珠は幕府の予算で架けた「御用橋」にだけしかつけられない。
つまり、日本橋と京橋と新橋しか、擬宝珠はついていないのだ。ほかのところにある橋にある擬宝珠は、ウソ。
ついでに「御用提灯」。時代劇では、御用と書かれた提灯を持った人が「御用だ、御用だ」と悪者を追っかけているが、「御用」の文字は正面ではなく、側面に書かれていた。正面に書くと、ほかからよく見えるので、悪者が逃げてしまう。
お銚子で酒を注いでいる場面も気になる。お銚子が出てきたのは幕末。それまでは銅製の直火用「ちろり」を用いていた。
椅子もだめ。江戸時代の人が腰掛けるのは「上がりかまち」だけだった。
しょうがないかなあと思うのは、既婚女性の「眉落とし」と「おはぐろ」。あれを忠実にやると、お化けを見ているみたいになってしまう。もう「令和」だからなあ…。