【第四十八回目】
竺仙:江戸のモチーフを現代に! 日本一の浴衣
みよちゃん こんにちは。セインさん。今日は「竺仙」にお連れします。天保13年(1842)創業の、日本一の浴衣と江戸小紋のお店です。この間は展示会にもご一緒しましたが、いかがでしたか?
セインさん 展示会では江戸小紋の工程の一部が見られたのが良かった。感動しました。
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みよちゃん 江戸小紋は、複雑な柄を染めるために、一つの柄を分解して2枚の型に彫り分けるんですが、職人さんの技がすばらしかったですね。和紙の上を小刀が動いていって、細い線や複雑な曲線が彫り抜かれていくのを、私も息をつめて見ちゃいました。
セインさん 職人さんに「こんなに集中してやっても、ひと月以上もかかるお仕事で、最後の最後に失敗したら悔しいですね」と聞いたら、「失敗しません」と言われちゃいました(笑)。
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小刀一つで、細かな柄が掘り出されていく!
みよちゃん (笑)それが、プロなんですね。私も静まりかえった作業場で仕事をしているのかとうかがったら、「いつも落語を聴きながらやっているよ…」とおっしゃったのが印象的でした。
この彫りの作業のあとの、2つの型を寸分違わず重ね合わせて染めていく工程も圧巻でしたね。
セインさん 1枚の反物は、小さな型を何度も置いては染めるというのを繰り返して作っているのに、境目がわからないのに驚きました。
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2枚の型がぴったり合って、一つの柄に。さらに、それを繰り返して1枚の反物が出来上がる
(小川) やあ、セインさん、こんにちは。「竺仙」の小川です。展示会にも足を運んでくださってありがとうございます。江戸小紋も浴衣も、日本の手仕事、江戸の技で作られているんですよ。
セインさんは、たとえばどんな柄がお好きですか?
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セインさん たとえば、女性用だったら、こんな柄かな。ビューティフル! モチーフは小川さんが考えられたものですか?
(小川) いえ、こうした浴衣の柄は、どれも江戸から伝わっているモチーフなんです。ただし、昔と今とではモチーフの使い方が違います。
江戸時代の浴衣の柄は、細かくて、凝ったモチーフを一つの浴衣のなかにいくつも組み合わせて使うのが一般的だったんです。でも、その良さがわかる人が少なくなってきた。それで、モチーフをひとつ一つにバラしてシンプルに使う方が現代人もわかり、また現代という時代の好みにも合うと考えたんです。
みよちゃん つまり、それは現代のご主人である小川さんが、江戸から伝えられてきた柄をアレンジしているということですか?
(小川) そうです。セインさん、これを見てください。
もう20年近く前に作ったポスターなんですが、着物離れが始まった時代で、若い人たちが昔ながらの浴衣を着なくなってきたんです。それで、あれこれ模索したんですが、「日本人なんだから、黙っていてもそのうちわかるだろう」という考え方をやめて、「現代人は外国人と一緒。浴衣自体にも新たな発想が必要だし、またその伝え方も昔のままではいけない」と思って、制作を思い立ったんです。そうして声をかけていったら、超一流の人たちが面白がって集まってきちゃって、すごいものができちゃった。
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セインさん すごい斬新なポスターですね。20年近く前のものとは思えないです。すばらしい。
(小川) 浴衣の柄も、どれもモダンでしょう? 無駄がなくて、すっきりしていて、いいでしょう? でも、これも江戸の昔からあるモチーフなんです。
セインさん なるほど。江戸からの店だからといって、古いものをずっと作っているんじゃないんですね。
(小川) そうです。実は、古い店というのは、いつも新しいことを考えているんですよ。そうでないと何百年も続かない。ただし、あまり先に行き過ぎてもいけないんで、一般の方々の1.5倍くらい先を見ている……という感じかな。
セインさん やー、勉強になりました。
ところで、僕にはどんな柄の浴衣が似合うでしょう?
(小川) セインさん、柄だけで考えてはだめですよ。
日本の着物は、西洋の服とちがって、形は一つですよね? 太い人も細い人も、背の高い人も低い人も、同じ反物を直線裁ちして、縫い合わせて作る同じ形の衣類です。つまり、形は同じだから、あとは色柄だけで決めるものだと思われがちなんですが、そうじゃないんです。
実は、着物は、身にまとうと人によって違う形になるでしょう?  たとえば、太い人が着ると布がパンッと張るけれど、細い人が着る皺が多く出る、というように。2次元の布を体に巻きつけるんだから、誰もがそれぞれに合わない部分が出てくるんです。着物は、その合わない部分が美しいんです。
みよちゃん ああ、なるほど! そして、その合わない部分が「個性」にもなるんですね。
セインさん 合わない部分が、重要! 哲学的ですねえ(笑)
(小川) じゃあ、お話はここまで。セインさん、実際、反物を肩に当てて合わせてみますか? 肌の色や髪の色によっても、雰囲気が変わりますよ。
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セインさんみよちゃん 今日は、ありがとうございました。
(文)太田美代 (英訳)デイビッド・A・セイン
■David Thayne(デイビッド・セイン)プロフィール thayne-photo1959年、米国生まれ。翻訳家、通訳、英会話経営者(エートゥーゼット英語学校)。カリフォルニア州アズサパシフィック大学で社会学修士号取得。証券会社勤務を経て来日し、多岐にわたって活躍中。 豊富なアイディアと行動力、そして誠実な飾らぬ人柄も万人に愛されている。 著書に『その英語、ネイティブにはこう聞こえます』(主婦の友社)、『使ってはいけない英語』(河出書房新社)、『英語ライティングルールブック』(DHC)、『英語でしゃべらナイト』(NHK出版)など多数。『Mainichi Weekly』(毎日新聞社)の連載や『水は答えを知っている」(The Hidden Messages in Water)等の翻訳も好評。 http://www.smartenglish.co.jp/

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