【うぶけや】
◆道具と人のいい関係◆
 当店は包丁やはさみ、剃刀、毛抜きなどのいわゆる刃物類を扱っておりますが、なかにはちょっと変わった品もございます。本日はそのうち、紙切りはさみにまつわるお話をいたしましょう。寄席芸で演じられる、あの紙切りに使うはさみです。
昭和45年頃でしたでしょうか。現在、紙切り芸の第一人者としてご活躍中の林家今丸さんがおいでになって、こうご注文になったのです。
「初代・正楽師匠のものと同じはさみを作ってもらえませんか」
正楽師匠のはさみは、昭和30年頃、当店でお作りしたものです。切っ先がするどく、刃を合わせた時の手ごたえが空気を切っているように軽いはさみ。ご相談を重ねながら、あれこれ工夫して仕上げたもので、お渡しする時に、ほかのかたには売らないお約束をしておりました。直弟子の今丸さんであっても、お断りするしかありません。
ところが、今丸さんは、どうしてもとおっしゃって、最後には膝をついてお頼みになります。師匠への篤い尊敬の心が、同じはさみを持ちたいというお気持ちにさせていることが伝わり、お話をうかがううちに、師匠が生前、おかみさんに「そろそろ今丸に同じはさみを持たせてやりたい」とおっしゃっていたことも知りました。
しみじみと師弟愛を感じながら作った今丸さんの紙切りはさみ。職人を泣かせた、嬉しいご注文でした。
刃物
うぶけや
●中央区日本橋人形町3-9-2
(地下鉄人形町駅から徒歩2分)
●03(3661)4851

最新記事

    This post is also available in: Japanese