【駒形 前川】
◆智恵子への手土産◆
 川魚問屋から鰻料理の店に転じて200年余。当店は隅田川のほとり、文字通り「前に川」を見る場所で商いを続けてまいりました。その間、数多くのお客様にご贔屓をいただいてきたのですが、私が最も胸を打たれたのが父から聞いた高村光太郎の話です。
高村光太郎は彫刻家であり詩人ですが、彼を有名にしているのは何といっても『智恵子抄』でしょう。光太郎が新進の画家であった智恵子と結婚したのは31歳の時。しかし、智恵子は次第に、心の病に犯されていきます。
光太郎といえば『智恵子抄』のイメージから繊細な印象がありますが、実は177cmはあったろうという長身の大男。
健啖家で、当店でも旺盛な食欲をみせたようです。そして帰りがけには必ずお土産を注文されました。それも、蒲焼だけではなく、「妻のために」と、必ず鰻の肝も。
〈智恵子は東京には空が無いといふほんとの空が見たいといふ〉
鰻の肝の持つパワーを、日々弱っていく妻に与えたかったのでしょうか。智恵子が亡くなってから、光太郎の食生活は自然食が主になっていったと聞いております。
鰻蒲焼
駒形 前川
●台東区駒形2-1-29
(地下鉄浅草駅 から徒歩3分)
●03(3841)6314

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